●主任技術者の規範と保安規程の作成と運用
電気は、あらゆる分野の事業活動において必要不可欠なエネルギーです。各事業所において、法的に責任を負って電気を安全に安定して供給するために大きな役割を果たしているのが「電気主任技術者」です。電気主任技術者はなぜ必要か、どのような仕事に取り組んでいるのかを説明します。
◆電気主任技術者はなぜ必要か
電気は誰でも簡単、便利に利用できる反面、扱い方を誤ると感電死傷事故、漏電による電気火災事故など重大な事故を起こす危険があります。自分の施設のみならず、電力会社の系統を通して起こる「波及事故」など社会的に大きな障害を与える場合もあります。
このため電気工作物の保安上のことについては電気事業法で法的規制が行われ、事業用(自家用)電気工作物の設置者は、電気保安の監督をさせるため、電気主任技術者を選任しなければならないと定められています。
電気事業法では 安全規制の対象となる電気工作物を事業用と一般用に区分しており、電気主任技術者が必要となるのは事業用工作物です。保安規制体系は、「自主保安体制」と「国の直接関与」から構成されていますが、国の直接的な規制は必要最小限にとどめ、電気保安に対しては自己責任を重視し、電気工作物設置者自身による自主保安体制の強化が図られ、自己責任の原則の基に電気設備を安全に使用することが、設置者および主任技術者に課せられ、次の四つのことを設置者に義務づけています。
- 電気工作物を技術基準に適合するように維持する
- 事業所内の自主保安体制を徹底させるため、その事業所に合致した「保安規程」を作成して届出ること
- 電気保安に関して十分な知識・経験を有する責任者(主任技術者)を選任すること
- 自主検査を実施して記録を保存すること
この中でも「電気主任技術者の選任」は最も重要となっています。
◆電気主任技術者の選任
電気主任技術者の選任の方法は
- 免状の交付を受けている者を選任する
- 大臣または局長の許可を受けて選任する
- 主任技術者を兼任させる
- 主任技術者を選任せず、外部に委託する
◆電気主任技術者免状
電気主任技術者免状の交付を受けることができるのは
- 主任技術者免状の種類ごとに省令で定める学歴または資格および実務の経験を有する者
- 電気主任技術者試験に合格した者
◆電気主任技術者の職務および権限
電気主任技術者は電気設備の運転、点検・検査、変更の工事など日常行われる業務の中で、保安上の考慮が十分なされているかを監視し、十分でないと認められる場合は正しく指導指示をします。電気主任技術者の選任は、その者を「保安監督の職務」を行わせる地位につけるということを意味します。よって電気主任技術者には、電気保安に関する監督の機能を十分果たすことのできる地位にある者を選任することが望ましいとされています。
◆保安規程とは何か
電気事業法第42条で「事業用(自家用)電気工作物を設置する者は、事業用(自家用)電気工作物の工事、維持および運用に関する保安を確保するため、保安規程を定め、経済産業大臣に届け出なければならい」と定められ、同条大4項では「事業用(自家用)電気工作物を設置する者およびその従業者は、保安規程を守らなければならい」と規定されています。
保安規程の目的は 電気工作物の種類や設備規模に応じて、その設置者が事業所に適した保安業務の基本的事項を定めるものであり、主任技術者の選任とともに自主保安の柱となっています。
◆電気主任技術者の実務と心構え
電気主任技術者は法的な責任と権限を持って、無事故・無災害を目視し、保安規程に定められた電気保安の監督に関する業務を遂行します。そのためには、日ごろの心構えとして、必要な情報が伝わるように努めること。電気保安の監督という使命を自覚し、職場、現場内での人間関係を良好に保ち、信頼を得られるように努め、保安に関する指示に従ってもらえるように努力することが大切です。
また、電気保安の監督をするには、幅広い関連技術や知識が必要となってきます。
そのため、
- 関係法令や技術情報を積極的に習得する
- 設備、現場の状況を熟知した上での指導、指示を行う
- 事故事例を勉強し活かすこと
といったことが大変重要となってきます。
第三種の受験者は毎年4万人を越える人数で、それにに対する合格率は10%程度です。(2009年度は受験者数47,593名、合格率9.6%でした)一方第二種の受験者は年々増加の傾向にあります。
合格率は1998年以降10年連続一桁で2008年度は一次試験受験者6,693名に対し675名と合格率が10%でしたが、2009年度は3.8%と依然低い合格率です。数字の示す通りたいへん厳しい合格率ですが、今たいへん注目されている資格と言えます。
●第二種電気主任技術者試験、年度別の合格率一覧
| 年度 | 一次試験受験者 | 二次試験受験者 | 合格率 ※一次受験者数に対して |
| 合格者 | 合格者 | ||
| 2009 | 6.743名 | 2.490名 | 3.8% |
| 1.805名 | 255名 | ||
| 2008 | 6.693名 | 2.251名 | 10.0% |
| 1.572名 | 675名 | ||
| 2007 | 6.832名 | 2.519名 | 3.6% |
| 1.222名 | 245名 | ||
| 2006 | 7.038名 | 2.285名 | 4.2% |
| 1.523名 | 295名 | ||
| 2005 | 7.127名 | 2.551名 | 7.6% |
| 1.581名 | 545名 | ||
| 2004 | 7.536名 | 2.702名 | 4.0% |
| 1.777名 | 303名 | ||
| 2003 | 7.772名 | 2.731名 | 6.2% |
| 1.769名 | 480名 | ||
| 2002 | 7.405名 | 2.993名 | 8.7% |
| 1.855名 | 641名 | ||
| 2001 | 6.889名 | 3.023名 | 5.3% |
| 1.931名 | 370名 | ||
| 2000 | 6.339名 | 3.127名 | 7.5% |
| 1.837名 | 476名 | ||
| 1999 | 6.010名 | 3.167名 | 6.1% |
| 2.026名 | 367名 | ||
| 1998 | 5.704名 | 2.807名 | 7.7% |
| 1.944名 | 440名 | ||
| 1997 | 5.078名 | 2.331名 | 11.9% |
| 1.666名 | 603名 | ||
| 1996 | 3.355名 | 2.004名 | 17.8% |
| 1.263名 | 597名 |
●第三種電気主任技術者試験(科目別)
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
| 2009 | 47.593名 | 4.558名 | 9.6% |
| 2008 | 40.140名 | 4.361名 | 10.9% |
| 2007 | 40.608名 | 3.647名 | 9.0% |
| 2006 | 41.133名 | 4.416名 | 10.7% |
| 2005 | 42.390名 | 4.831名 | 10.8% |
| 2004 | 44.661名 | 3.851名 | 8.6% |
| 2003 | 51.480名 | 5.336名 | 10.4% |
| 2002 | 53.804名 | 4.3647名 | 8.1% |
| 2001 | 53.446名 | 6.490名 | 12.1% |
| 2000 | 55.767名 | 6.703名 | 12.0% |
| 1999 | 52.358名 | 6.238名 | 11.9% |
| 1998 | 54.386名 | 5.804名 | 10.7% |
| 1997 | 59.025名 | 7.982名 | 13.5% |
| 1996 | 51.895名 | 8.646名 | 16.7% |
●第一種電気主任技術者試験、年度別の合格率一覧
| 年度 | 一次試験受験者 | 二次試験受験者 | 合格率 ※一次受験者数に対して |
| 合格者 | 合格者 | ||
| 2009 | 1.721名 | 608名 | 2.9% |
| 368名 | 68名 | ||
| 2008 | 1.617名 | 593名 | 4.3% |
| 353名 | 118名 | ||
| 2007 | 1.651名 | 314名 | 2.6% |
| 443名 | 43名 | ||
| 2006 | 1.755名 | 374名 | 2.3% |
| 234名 | 41名 | ||
| 2005 | 1.666名 | 524名 | 4.0% |
| 219名 | 66名 | ||
| 2004 | 1.627名 | 694名 | 3.0% |
| 381名 | 49名 | ||
| 2003 | 1.590名 | 685名 | 5.1% |
| 443名 | 81名 | ||
| 2002 | 1.389名 | 566名 | 3.8% |
| 332名 | 53名 | ||
| 2001 | 1.328名 | 591名 | 5.6% |
| 327名 | 75名 | ||
| 2000 | 1.285名 | 638名 | 10.0% |
| 398名 | 129名 | ||
| 1999 | 1.261名 | 515名 | 3.7% |
| 335名 | 47名 | ||
| 1998 | 1.108名 | 432名 | 6.5% |
| 259名 | 72名 | ||
| 1997 | 901名 | 428名 | 14.0% |
| 272名 | 126名 | ||
| 1996 | 659名 | 327名 | 9.6% |
| 216名 | 63名 |
●第三種電気主任技術者試験、科目別・年度別の合格率一覧
| 年度 | 理論 | 電力 | 機械 | 法規 |
| 2009 | 13.2% | 15.5% | 12.9% | 22.0% |
| 2008 | 12.6% | 12.7% | 13.2% | 28.6% |
●関根泰次氏(東京大学名誉教授)インタビュー『電気主任技術者の役割』
関根泰次氏プロフィール
1959年東京大学博士課程を修了。
同大学教授を経て92年同大学名誉教授。
・東京大学名誉教授 ・東京理科大学教授 ・スウェーデン王立工学アカデミー会員 ・総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会委員 ・(財)電気科学技術奨励会会長 ・日本電気協会監事 ・電気工業会監事
〜電気の安全確保の基礎になる電気主任技術者資格〜
------先生は電力技術分野の第一人者として、長年にわたって電気主任技術者やエネルギー管理士の国家試験委員長をつとめてこられたわけですが、技術系の資格の中で、電気主任技術者の役割というはどのような点にあると感じられていますか?
「電気主任技術者というのは、電気の保安、つまり電気の安全を考えることが第一の役目だと感じていますね。この点が本当に重要はことだと思っています。
“電気”というものが使われ始めたのは前世期末から今世紀初めにかけてのことで、その当時の人々が一番気にかけていたのは“感電”ということでした。そのために、電気の保安が注目されることになったのです。
当時は、一般的に“電気なんてとんでもない話”というような時代で、感電によって死者などが出た場合、“電気そのものがいけない”といった認識をもたれていました。この点現在の原子力の受難期とダブってみえます。ですから、電力技術分野で私の大先輩に当たる方々も、電気の保安、安全といった点には非常に気を使っていたわけです。
電気主任技術者という資格は、電気の安全を確保するため、技術的にしっかりとした管理のできる人が必要、ということで生まれた制度で、この資格は電気の安全というものの基礎になっているといえるでしょうね。
------当初、感電(Electric Shock)というのはそれほど大きな問題だったのですか?
「“感電”というと、現代の私たちはすぐに人間を思い浮かべますが、 当時の日本では、人間だけでなく牛や馬の感電が問題になりました。今では東京の街を馬が歩くといった光景は見られませんが、昔は、馬車などはもっとも普通の公共輸送機関であり、その主役である馬が、鉄道の踏切でよく感電したのです。踏切内には弱い電流が流れているところがあり、馬の蹄鉄がそれに触れると感電し、動物の中でも特に敏感な馬がひっくり返って死んでしまうということがしばしばあって、問題になっていました。
また、電気を原因とする火災も起きるようになってきました。 今でも原因不明の火災があると、“あれは漏電ではないか”などとよくいわれますね。
このような電気によるさまざまな事故に対し、いろいろな保安対策を講じてきた結果、現在は感電、漏電などによる事故は激減し、日本の場合、ヨーロッパやアメリカの数分の一になったのです。その面で電気主任技術者が果たしてきた役割は非常に大きく、今後においてもこれは大切なことだと思います。
ただ、最近少し今までとは変わった責務が現れてきているよにも感じています。従来は、電気主任技術者の役割は電気の安全を守るのが第一で、それにかかる費用というものは二の次でした。しかし、自由化の波がこの分野に押し寄せてきて、できるだけ安いコストで電気の安全を維持するにはどうすればよいか、といったことが大きなテーマになってきています。
電気主任技術者が、これらから実際に社会で直面する問題については、 従来とは違った見方が必要になってくるかもしれませんね。」
〜自由化が進む中で変化した電気主任技術者の役割〜
------具体的な動きがでているのでしょうか?
「安いコストでいかにして安全を確保するか、といった点が大切になってきています。
たとえば、これまでは毎年検査を受けなければならなかった電気設備についても、機器の種類によっては二年に一度でいいもの、三年に一度でいいものというように変わってきています。そうなると、その分だけ保守の費用を節減できるわけです。
それを別の方向から見ると、それらの仕事をしてきた人が不要になるということで、職場が狭くなっています。今後はそのあたりの経済性と安全性のかね合いが 大きな問題となってくるでしょうね。とりわけ IPP(Independent Power Producer=独立電気事業体)という新しい事業団体が参入してくると、大きく変わってきます。
従来は発電から、送電、配電まで、技術的に一貫した体系の上で、一つの対策を行うにしてもどこがやるのかが非常にはっきりしていました。しかし、これからは発電部門にも電力会社以外の業者が入ってくるようになるし、電気工事についても従来のように実績のある 指定業者だけが行うのはなく、さまざまな会社が参入してきます。自由化の影響がいろいろなところに出てくるだろうと思いますし、今後それが電気主任技術者の 果たすべき役割の面にも影響を与えるようになってくるでしょうね。」
------それは、たとえばどのようなことなのでしょうか?
「おそらく、電気主任技術者の責任ということが今まで以上に厳しくなってきますね。故障や事故などが起きた場合、それは機械を設置した人の責任なのか、主任技術者の責任なのか、といったことが厳密に論議されるようなると思います。電気主任技術者がきちんとした忠告を出したかどうかという点も問われるようになります。技術者も、技術者としての本来の社会に対する責任は何かということをしっかりと考えていかなければならない。この点、アメリカをはじめとする諸国のPE(Professional Engineer)のあり方など大きな参考になるでしょう。日本のPE制度は率直にいって、これまで社会的に十分機能してきたとはいえませんが、これからはおそらくアメリカのPEの果たしている役割を電気主任技術者が果たしていくことが必要になるでしょうね。とにかく電気主任技術者を取り巻く社会的環境は、責任を軸に大きく変わってくるだろうと思います。
その一方で、さきに申し上げたように、経済性に関しても神経を使う必要があります。たとえば同じ安全を守るにしても、機器類にはいろいろな種類があって、その中でどういうものをお客様に勧めるか、ということになります。これまでは法律で決められた安全性の基準を満たしていれば、お客さんが何といおうが“それは知らん”で済んでいました。 しかし、これからは商売という面でそれだけでは済みません。いわば“自己責任”ということで、電気主任技術者が お客様にアドバイスするにしても、経済性を考えていかなければならないでしょうね。実際にメンテナンスのやり方についても一昨年以来、監督官庁の規則もずいぶん和らいで、自己責任という方向に向かっています。
〜情報技術が求められてくる電気主任技術者の将来〜
------このところ第二種電気主任技術者を受験する人が急増していますが。
「はっきりしたことはわかりませんが、電力会社がお客様重視という姿勢をはっきりと示してきた結果かもしれません。自由化されて以来、電力会社ではお客様向けにずいぶん人材を回し、サービス面を強化してきていますから。さらに一般の人たちでいえば、若者たちの資格志向ということ。若い人たちの中では、一ヶ所で働き続けるという従来の人生計画のパターンが崩れ、いろいろな種類の資格を取得し、それによって生計を立てよう考えている人が増加している傾向があります。職業を次々変えるとう流動性の中で資格をとりたいと考える人がおり、その波が第二種電気主任技術者の受験者増加にもつながっているのではないでしょうか。」
------電気主任技術者の将来、ということでこれから求められるものは?
「今、私が強く感じていることは、情報技術を身につけることが今後電力エンジニアにとって非常に大切になるだろう、ということです。
従来、電気に関しては、電力会社とメーカー、需要家の関係持ち分は非常にはっきり分かれており、それぞれの境界線が明らかでした。しかし、最近、この境界線は世界的にもぼんやりとしてきています。たとえば発送電設備の保守は、従来電力会社の役目でした。しかし今では保守の仕事も外部に委託し、費用を払ってやらせるようになってきている。メーカーにしても、従来は変圧器とか発電機とか機械だけを作って売っていましたが、最近はハードを納めると同時にそれを点検し保守するというサービスまで込みにして商売するようになっています。これは実質的には、従来も行われてきたことですが、その実態が顕在化しつつあるということでしょう。そうなると、扱う範囲も非常に広くなり、サービス提供の段階ではインターネットなどの情報技術が大きな役割を果たすようになってくるわけです。
そんなことで、近い将来、電気主任技術者に対してもそういった知識なり経験なりが求められるようになることは間違いありません。それがいつのことなのか、求められる情報技術とはどんなものなのか、今の段階ではわかりませんが、それに対する備えだけはしておくべきでしょう。」




